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松山地方裁判所 昭和46年(行ウ)3号 判決

松山市南江戸町一二五六番地

原告

日銀不動産株式会社

右代表者代表取締役

三橋春男

松山市本町一丁目三番地四

被告

松山税務署長

中村治郎

右指定代理人

河村幸登

中村弘

大歯泰文

萩原義照

卓正

西岡清文

真鍋一市

土居鬼志雄

西原忠信

主文

1  原告の訴をいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

当事者双方の求めた裁判、事実上および法律上の主張、認否は、別紙準備手続結果の要約記載のとおりである。

証拠として、原告は、甲第一号証、第二号証の一ないし一一、第三号証の一ないし一二、第四および第五号証の各一ないし四、第六ないし第一一号証を提出し、証人松本ヒトミの証言ならびに原告代表者本人尋問の結果を援用し、乙第六号証の成立は知らないが、その余の乙号各証の成立は認めると述べ、被告指定代理人は、乙第一ないし第五号証の各一、二、第六号証、第七号証の一ないし五、第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一、二を提出し、甲第一号証、第八ないし第一一号証の各成立は認めるが、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。

理由

一  原告の請求原因(一)ないし(三)の各1、2の事実は、当事者間に争いがない。

また、国税不服審判所長が原告の審査請求に対し、昭和四六年四月二二日付でなした昭和四一事業年度以降の青色申告書提出の承認取消処分および昭和四一事業年度の法人税所得金額更正等処分についての各棄却裁決、ならびに昭和四六年五月一三日付でなした昭和四二事業年度の法人税更正等処分についての棄却裁決の各裁決書謄本が原告に送達された日はいずれも昭和四六年五月一五日であることも、当事者間に争いがない。

そして、原告が右各原処分の取消を求めて当裁判所に出訴したのが同年八月一六日であることは、本件記録上明らかである。

二  ところで、右各原処分に対する取消訴訟は、右各裁決のあつたことを知つた日から三か月以内に提起しなければならず(行訴法一四条一項)、右の出訴期間は、本件のように審査請求があつた場合には、その審査請求をした者(原告)が裁決のあつたことを知つた日から起算する(同条四項)ものであるから、右知つた日の初日を算入してこれを計算すべきものであると解するのが相当である。

三  しかるところ、原告は、前記各裁決書謄本の送達を受けたのが昭和四六年五月一五日であつても、原告代表者が現実に右各裁決書謄本の存在を了知したのは同月一八日であるから、本件出訴期間の計算にあたつては右一八日からこれを起算すべきである旨主張するので、判断する。

成立に争いのない甲第八、第九号証、乙第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一、二ならびに証人松本ヒトミの証言および原告代表者本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告会社は、当初その商号を株式会社レディ薬局と称していたが、昭和四三年ころ株式会社ローヤルと改め、ついで昭和四七年七月五日これを現在の日銀不動産株式会社と改めたものであり、原告代表者三橋春男は昭和四三年ころに原告会社の代表取締役に就任して今日に至つているものであること、そして同名の訴外株式会社レディ薬局は原告の妻三橋フジ子がその代表取締役をしており、同社はもともと本店を今治市においていたが、昭和四一、二年ころ本店を松山市湊町四丁目六番地一八に移し、原告会社が商号を株式会社ローヤルに変更したころ同所の営業の譲渡を受けて今日に至つていること、ところで原告会社と右訴外会社とはその役員のほとんどを共通にし、しかもその役員は原告会社代表取締役三橋春男の親族等で構成されている姉妹会社、同族会社であつて、昭和四一、二年以降、原告会社の本店、事務所は、昭和四七年七月に松山市南江戸町に移すまで、右訴外会社と同じ松山市湊町四丁目六番地一八にあつたこと、原告会社は、その商号を株式会社ローヤルに変更した昭和四三年ころから、営業休止状態にあつて、役員は常勤せず、従業員は一人もおらず、右本店、事務所には原告会社の商号等を示す看板等も掲げていなかつたこと、そして原告代表者三橋春男は、原告会社の代表取締役に就任する前の昭和四二年ころから、住所を東京都港区芝三丁目二七番一号におき、昭和四七年ころまで東京で不動産鑑定士の勉強をしていたが、その間時々松山に帰つて来る程度であつたので、原告会社宛に送達を受けた郵便物等については、前記訴外会社レディ薬局の総務課長で文書処理事務を担当していた松本ヒトミに対し、原告会社宛の郵便物等は開封せず封筒に受領月日を鉛筆書して、これを直ちに右原告代表者の住所地に転送するよう依頼していたこと、そのため松本ヒトミは、原告会社宛の郵便物が届いたときは、書留のものなど受領印を要する重要なものは、すべて同人の認印を押捺してこれを受領し、到着月日を記入したうえ、開封しないままこれを直ちに右住所地に転送していたこと、松本ヒトミが右のようにして原告代表者の住所地に転送した郵便物の数は、依頼を受けた昭和四四年ころから数通ぐらいはあり、昭和四六年五月一五日に送達を受けた本件各裁決書謄本も松本ヒトミが右のようにして原告代表者の右住所地に転送しており、原告代表者が現実にこれらを受取つたのは同月一八日てあること、そして、原告会社宛の郵便物の受領を任されていたのは、右松本ヒトミだけであり、松山市湊町の前記原告の本店、事務所に到達した郵便物は必ず松本ヒトミの手元に集るような仕組になつていたことなどの事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

以上の認定事実によれば、原告会社代表者三橋春男は、右松本ヒトミに対し、原告会社宛に到着した郵便物等の代理受領の権限を付与していたものと認めるのが相当であつて、右松本ヒトミが本件各裁決書謄本を受領した昭和四六年五月一五日に本人である原告会社(代表者)がこれを知つたものとして、同日から本件出訴期間が進行するものと解するのが妥当である。

よつて、これと趣旨を異にする原告の主張は採用することができず、結局、昭和四六年八月一六日に提起した原告の前記各原処分に対する取消の訴は、いずれも原告(代表者)が本件各裁決の存在を知つたものとみるべき昭和四六年五月一五日から起算して三か月の出訴期間を経過した後になされた不適法なものというべきである。

四  ところで、原告の昭和四二事業年度の法人税所得金額等について、前示のとおり原告の請求原因(三)1記載の更正処分がなされ、さらに同(三)2記載のとおり右について一部取消の異議決定がなされたが、被告はその後昭和四六年五月二六日付で同(三)4記載のとおり一部取消後の右更正等処分につき増額再更正等の処分をなしたこと、そこで原告は同年七月二六日付で被告に対し異議の申立をしたが、被告は同年一〇月二五日付でこれを棄却しそのころ原告に通知したこと、原告はこれに対し審査請求の手続をとつていないことは当事者間に争いがなく、原告は昭和四六年八月一六日に同(三)1記載の更正等処分取消の訴を提起し、その後昭和四七年二月四日提出の請求の趣旨および請求の原因一部変更の申立書(同年三月七日の本件準備手続期日において陳述)において、右更正等処分取消の訴(前訴)から前同(三)4記載の増額再更正等処分取消の訴(後訴)に変更したことは本件記録上明らかである。

そこで、原告は、右前訴後訴を通じて同一の違法事由を主張しており、昭和四六年八月一六日に提起した前訴は、後訴についての出訴期間内に出訴しているのであるから、たとえ後訴についてその出訴期間経過後に訴の変更がなされておつても、後訴の出訴期間を遵守したものと解すべきである旨主張するので、判断する。

思うに、もともと被告のなした右更正等処分と増額再更正等処分とは別個独立の行政処分である。そして、前訴を取下げると同時に新たな後訴を提起するところの訴の交換的変更がなされた場合、後訴について出訴期間を遵守しているかどうかは、もつぱら右後訴の提起時すなわち訴の変更時を基準として判断すべきであることは、行政事件訴訟法二〇条後段の規定からも明らかであるのみならず、前訴は既に不適法であつて、不適法な前訴の提起時まで遡及させることは全く許されないと解するのが相当であり、この理はたとえ原告が前訴後訴を通じて同一の違法事由を主張しているときであつても何ら異るところはないというべきである。

よつて、これと見解を異にする原告の主張は採用することができず、結局、昭和四七年二月四日に提起した(訴を変更した)原告の右増額再更正等処分取消の訴は、原告(代表者)が遅くともその異議決定の存在を知つた昭和四六年一〇月二五日ころ(その後審査請求を経ていない)から起算して三か月の出訴期間を経過した後になされた不適法なものというべきである。

五  以上の次第で、原告の本件訴はいずれもこれを不適法として却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条および民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺一雄 裁判官 梶本俊明 裁判官 梶村太市)

昭和四六年(行ウ)第三号 法人税等賦課処分取消請求事件

準備手続結果の要約

第一 当事者の求める裁判

一 原告(請求の趣旨)

1 被告が原告に対し昭和四五年四月三〇日付でなした原告の自昭和四一年二月一日至昭和四二年一月三一日事業年度以降の青色申告書提出の承認取消処分を取消す。

2 被告が原告に対し昭和四五年四月三〇日付でなした原告の自昭和四一年二月一日至昭和四二年一月三一日事業年度分法人税にかかる所得金額を一、一二五万五、三五〇円と更正し重加算税八〇万四、六〇〇円を賦課決定した処分のうち、昭和四六年五月一三日付審査裁決により一部取消された後なお効力を維持する所得金額五九四万六、六二四円につき一四四万二、六六一円を超える部分および重加算税を二四万六、九〇〇円とする処分をいずれも取消す。

3 被告が原告に対し昭和四六年五月二六日付でなした原告の自昭和四二年二月一日至昭和四三年一月三一日事業年度分法人税にかかる所得金額を六九八万三、一七二円と再更正した処分のうち九一万六、三〇三円を超える部分および重加算税五九万三、一〇〇円を賦課決定した処分をいずれも取消す。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

第二 当事者の主張

二 (本案前の主張に対する原告の反論)

(一) 高松国税不服審判所長の本件各裁決書謄本は昭和四六年五月一五日原告の本店に送達された。したがつて特別の事情のないかぎり原告は右送達を受けた日に本件各裁決の存在を現実に知つたものと認められるところ、原告には左の特別事情が存在する。

すなわち、当時原告は営業活動を休止中で主要な業務は本件国税不服申立に関するものであつたが、既に本件においては当時高松国税不服審判所の審査もほぼ終了し裁決の結果を待つばかりになつていた。そこで原告としては、本店所在地に業務執行役員および従業員が常勤していなかつたので、右裁決の送達に対処すべく訴外株式会社レデイ薬局の文書処理事務の責任者である総務課長松本ヒトミに裁決書等の郵便物が原告本店に到達した場合には開封せず封筒に受領月日を鉛筆書してこれを直ちに原告法人の代表取締役三橋春男の住所地東京都港区芝三丁目二七番一号に転送するよう依頼していたところ、昭和四六年五月一八日に本件各裁決書が右住所地に転送されてきた。

したがつて原告が右各裁決の存在を現実に知つたのは昭和四六年五月一八日であつて、原告の右了知が遅れたのは原告の責に帰すべからざる特別事情に基くものである。

(二) 被告は原告法人の代表取締役の妻で原告法人の監査役が松山市内に居住しかつ株式会社レデイ薬局に常勤していたから送達当日これを十分知り得たはずであると主張するが、三橋フジ子は株式会社レデイ薬局に到達する文書整理の事務に直接たずさわつておらず、本件各裁決書封入の郵便物の存在すら知らなかつたのである。三橋フジ子は原告法人の前代表取締役であるが、当時は監査役で業務執行の責にある取締役ではなかつたから、同人が原告法人と本店所在地を同じくする株式会社レデイ薬局に常勤していたとしても、前述の特別事情があるので被告の主張は失当である。

(三) (請求の趣旨3につき仮定主張)かりに右主張が認められないとしても、原告の請求の趣旨3の四二事業年度課税処分取消請求の訴においては、被告の再更正処分等の取消を求めているものであるところ、右処分は昭和四六年五月二六日付であるから、同年八月一六日に提起した本訴が出訴期間内であることは明らかである。ところで、右訴は当初被告の昭和四五年四月三〇日付更正処分の取消を求めていたのを右再更正処分取消請求に訴を変更したものであるが、原告はその前後を通じて同一の違法事由を主張しており、右のとおり更正処分等取消請求の前訴は再更正処分等取消請求の後訴についての出訴期間内に出訴しているのであるから、たとえ後訴の出訴期間経過後に訴の変更がなされても、右は出訴期間を遵守したものと解すべきである(名古屋高判昭四六、六、一六高民集二四、二、二二七参照)。

三 原告の請求原因

(一) (青申取消処分取消請求について)

1 原告会社はかねてより所謂の被告から法人税確定申告書等を青色の申告書により提出することの承認を受けていたところ、被告は昭和四五年四月三〇日付で原告会社の自昭和四一年二月一日至昭和四二年一月三一日事業年度(以下四一事業年度という)以降の青色申告書提出の承認を取消す処分(以下本件青申取消処分という)をなし、そのころ原告に通知したが、右処分通知書にはその理由として「法人税法第一二七条一項三号に掲げる事実に該当すること」と記載されているにすぎない。

2 そこで原告は右処分を不服として昭和四五年六月二九日付で被告に対し異議の申立をしたところ、被告は同年九月二八日付でこれを棄却したので、さらに同年一〇月二七日付で国税不服審判所長に対し審査の請求をしたが、同所長は昭和四六年四月二二日付でこれを棄却した。

3 原告は同年五月一八日に至り初めて右裁決の存在を現実に了知した。

4 ところで青申取消処分の通知書に附記する理由は、いかなる事実が法人税法一二七条一項各号のどの取消事由に該当するかを具体的に明記すべきであつて、このことは右条項を示すことによりかりに原告に取消事由を了知できる場合であつても異ならないというべきである。けだし、青色申告にかかる更正処分通知書の理由附記についてさえ処分理由を具体的に附記しなければならないのに、原告にとつてこれより利益侵害の程度の大きい青申取消処分の理由附記がより簡略であつてよい根拠はないからである。

5 しかるに、本件青申取消処分はその具体的理由を欠くこと前述のとおりであつて、右処分は違法であるからこれが取消を求める。

(二) (四一事業年度課税処分取消請求について)

1 原告は昭和四二年三月三一日被告に対し四一事業年度の法人税にかかる所得金額を一四四万二、六六一円(法人税額四〇万三、九二〇円)と青色申告したところ、被告は昭和四五年四月三〇日付で右所得金額を一、一二五万五、三五〇円(法人税額三七二万九、二〇〇円)と更正し、重加算税を八〇万四、六〇〇円と賦課決定し、右処分をそのころ原告に通知した。

2 そこで、原告は右処分を不服として同年六月二九日付で被告に対し異議の申立をしたが、被告はこれを同年九月二八日付で棄却したので、原告はさらに同年一〇月二七日付で国税不服審判所長に対し審査の請求をしたところ、同所長は昭和四六年四月二二日付裁決により前記更正額等を一部取消し所得金額を五九四万六、六二四円(法人税額一八七万一、一〇〇円)重加算税額を二四万六、九〇〇円とする旨決定した。

3 原告は同年五月一八日に至り初めて右裁決の存在を現実に了知した。

4 しかしながら、前記1記載の更正処分の通知書には理由の附記がないところ、同事業年度分以降の青申取消処分が違法であることによつて取消されるに伴ない、前記更正処分は、その通知書に更正の理由の附記を欠く違法があるうえ、原告の当事業年度の所得金額は前記申告額のとおりであつて、前記の更正処分は所得金額を過大に認定した違法があるから、原告は被告に対し請求の趣旨2のとおり裁判を求める。

(三) (四二事業年度課税処分取消請求について)

1 原告は昭和四三年三月二九日被告に対し原告の自昭和四二年二月一日至昭和四三年一月三一日事業年度(以下四二事業年度という)の法人税にかかる所得金額を九一万六、三〇三円(法人税額二三万八、五〇〇円)と青色申告したところ、被告は昭和四五年四月三〇日付で右所得金額を九二七万七、二五三円(法人税額三〇一万九、〇〇〇円)と更正し、過少申告加算税を一万三、四〇〇円重加算税を七五万三、〇〇〇円と賦課決定し、そのころ原告に通知した。

2 そこで原告は右処分を不服として同年六月二九日付で被告に対し異議の申立をしたところ、被告は同年九月二九日付で右処分の一部を取消し右所得金額を六三八万二、二七二円(法人税額二〇〇万五、七〇〇円)過少申告加算税額零円重加算税額五三万〇、一〇〇円とする旨決定したので、原告はさらに同年一〇月二七日付で国税不服審判所長に対し審査の請求をしたが、同所長は昭和四六年五月一三日付でこれを棄却した。

3 原告は同年五月一八日に至り初めて右裁決の存在を現実に了知した。

4 ところが、被告はさらに同年五月二六日付で原告の当事業年度の所得金額を六九八万三、一七二円(法人税額二二一万六、一〇〇円)と再更正し、重加算税額を五九万三、一〇〇円と賦課決定し、そのころ原告に通知した。

5 そこで原告は右処分を不服として同年七月二六日付で被告に対し異議の申立をしたが、被告は同年一〇月二五日付でこれを棄却し、そのころ原告に通知した。

6 原告は前記4の再更正処分に対し審査裁決を経ていないが、本訴は国税通則法一一五条一項二号の場合にあたるものである。

7 しかしながら、前記4記載の再更正処分の通知書には理由の附記がないところ昭和四一事業年度分以降の青申取消処分が違法であることによつて取消されるに伴ない、前記再更正処分は、その通知書に再更正の理由の附記を欠く違法があるうえ、原告の当事業年度の所得金額は前記申告額のとおりであつて、前記再更正処分は所得金額を過大に認定した違法があるから、原告は被告に対し請求の趣旨3のとおりの裁判を求める。

六 原告の認否と反論

(一) (青申取消処分の違法性)

1 原告が香川商会等の架空の名称を用い、大阪・東予・高知方面に商品の販売を行い、その代金を広島銀行松山支店に西川繁夫、杉原シズ子等の名義で設定した普通預金に預入したことは認めるが、その余は争う。

原告の右行為は、当時原告がおかれていた特殊な金融事情のため仕入価格より低価で商品を現金化し支払いに充当する必要があつたためで、架空名義で販売したのは原告の業界における信用低下を恐れたためであり、原告以外の名義で預金したのは西川繁夫の名義で銀行から融資を受ける目的のためであつて、原告は同名義から預金を引出すにあたつては必す原告名義の当座預金等に充当するか原告の手持現金に充当しており、原告において売上除外の事実はなく隠蔽または仮装によつて法人税の軽減を意図したことは全くない。なお後述(二)1の認否と主張をここに引用する。

2 一般に法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、行政庁の判断の偏重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨であると解されるから、その理由は処分を相当とする具体的根拠を明示しなければならないのであつて(最判昭三八、五、一三民集一七、四、六一七)、この趣旨は本件のような青申取消処分通知書の理由附記においてもそのままあてはまるものというべきであるから、右通知書にはいかなる事実がどの取消事由に該当するのかを具体的に明示すべきである。

被告は単に該当条項を記載すればたりると主張するが、法が青申取消処分の通知書について特に該当条項を明示するよう求めているのは、右承認が取消されるといつたん与えられていた特典が将来にわたつて全部剥奪され、いわば一時的な不利益を与えるにすぎない更正処分に比較するとその利益侵害の度合が甚だ大きく一種の制裁的機能をもつものであることにかんがみ、妥当でない。

また被告は該当条項号を示せばことの性質上被処分者は必要な範囲内の理由は知り得るはずであると主張するが、附記理由はそれ自体に明示しなければならず、このことは被処分者が他の事実から理由を了知し得ると否とにかかわらないというべきである(最判昭三七、一二、二六民集一六、一二、二五五七)。

被告は法人税法一二七条二項の文理解釈を一つの根拠にあげているが、それは独自の見解であつて、右条項は読み方によつては「同項各号のいずれに該当する」はもとより、当然その前提となるべき「取消の基因となつた事実」をも附記することを要する趣旨とも解される。

ともあれ、規定の文言あるいは表現形式にこだわることなく、制度の目的、処分の性格、理由附記を命じた趣旨などに着目してこれを合理的に解釈すれば、原告主張のとおり、青申取消処分通知書にはいかなる事実がどの取消事由に該当するのかを具体的に明示しなければならないものというべきであつて、被告の主張は失当であること明らかである。

(参考判決例)

(1) 仙台高秋田支部昭四七、五、一七判時六七三、二八

(2) 大阪高判昭四四、一二、一六判タ二四七、二〇五

(二) について

四一事業年度について原告が申告した損益計算は別表一の「A原告金額」欄記載のとおりであることは認める。

1 について

原告主張の各預金に主張金額の入金のあつたことは認めるが、右預金入金額が売上除外にかかるものであるとの主張は争う。

高石フジ子名義普通預金二一万九、八九〇円の入金は原告の当時の代表取締役三橋フジ子個人の預金であつて原告会社のものではない。

被告主張の差額三五〇万二、六〇四円より右二一万九、八九〇円を控除した三二八万三、七一四円は原告の手持現金等のなかから入金したものであつて、売上除外にかかるものではない。

別表三(一)については主張の預金の存在とその金額の入金は認めるが、売上代金のすべてを西川等名義の預金に入金したのではなく一部現金のまま保有し後日売上に計上したものがある。

別表三(二)の松田商店からの収入があつたこと、杉原シズ子名義の預金に主張の入金のあつたことは認める。右売上収入は小切手により受取つたものであるが、小切手入金のすべてを銀行交換方式により取立てたわけではなく現金化したものがある。

なお、松田商店への売上金額と原告が後日売上に計上した金額との関係は別表六(一)のとおりであつて、同表に示すとおり原告は売上に計上しており売上除外の事実はない。

被告主張の別表四記載の六七四万九、五一六円の明細は認めるが、これらはいずれも売上に計上しており、原告に売上除外の事実はない。

いずれにせよ被告が三五〇万二、六〇四円を売上除外と認めた具体的根拠に欠けており、単なる控計課税の域を脱せず不当である。

2 について

各預金と利息の存在は認めるが、高石フジ子分一七〇円は前述のとおり三橋フジ子個人の預金利息で原告の所得とはならず、その他の利息は売上に計上しており、かりに勘定科目の選定を誤つたとしも利益金除外はない。

3 について

原告が取締役西川繁夫に主張の賞与等を支給したことは認めるが、同人は当時総務部長の職にあり使用人兼務役員である。株主総会に出席して議事録に記名押印しているが、これは出席取締役として当然のことであり、賞与等の額もわずか年額一七万一、八一〇円にすぎず他の使用人と同一時期、同一の計算方法により算出された額を基準として支出せられたもので、実質的に損金経理すべきものである。

4 について

青申取消処分が違法であることにより取消されるに伴い当然承認されるべきである。

5 について

争う。

(三) について

四二事業年度について原告が申告した損益計算は別表二の「A原告金額」欄記載のとおりであることは認める。

1 について

原告主張の預金の存在とその入金額は認めるが、坂本クミ子名義の普通預金は原告のものではなく三橋フジ子個人のものであつて、原告に売上除外の事事はない。

被告主張の別表五(一)、(二)の関係を表にすると別表六(二)のようになり、昭和四二年二月一一日の売上は同月二五日、三月一日、一三日、四月七日の売上合計額は四月七日に各売上計上されており、売上除外の事実はない。

その余の売上除外の主張も根拠があいまいで単なる推計課税の域を脱せず不当である。

2 について

各預金と利息の存在は認めるが、坂本クミ子、高石フジ子名義の普通預金はいずれも三橋フジ子個人のものであり、その利息計二二七円は原告の所得に属しない。

利息八五万〇、三四四円については、訴外株式会社銀ビルは昭和四〇年六月初めころより銀行当座取引停止処分を受け同事業年度ころは業務休止中で事実上の倒産状態にあり、原告の同社に対する債権を現金で回収することは極めて困難であつたため、別紙七(一)、(二)記載のとおり原告は同社から土地一二筆を代物弁済として受領したので、同社に対する債権はすべて消滅しそのため利息債権は発生しない。

3 について

青申取消処分が違法であることにより取消されるに伴い当然承認されるべきである。

4 について

訴外吉田学からの仕入につき同人発行の領収書があり、品目明細ならびに受入について当時の商品領収係である倉庫責任者三橋春男の領収証印がある。吉田学からの仕入商品については回転の早い商品にかぎり仕入したので必ずしも返品処理についての考慮は要せず、また取引先につき必ず領収書記載の住所に居住しあるいは店舗を持つているかを取引に当り確認すべき法的根拠はない。特段の事情のないかぎり取引相手方の確認としては領収書に住所を記載するをもつてたれりとするのが商慣習である。したがつて、右仕入をもつて架空仕入と認定することは誤りである。原告としては領収書記載の住所をもつて実際の住所と思つたのである。

原告が厚生薬品その他より一一九万四、五九六円の仕入をしたことおよび期末に返品した商品の仕入額の減算金額が八三万三、四一六円あつたことは認めるが、それらはいずれも昭和四三年度(次年度)の仕入および減算金額であつて、同年度の確定申告において計上している。原告は期間計算については、毎事業年度継続的統一的に実納入日等を基準にした定めにしたがつて記帳計上しているのであつて、原告の記帳計上に誤りに存しない。

5 について

取締役西川繁夫に対して支給した賞与についての原告の主張は前年度と同様である。

監査役三橋春男に対する報酬支払は非常勤の場合月額一万円、常勤の場合月額五万円、やや常勤に近い場合月額三万円と区別して支払つたもので、この程度の報酬は社会通念上実情に即しており適正であつて過大報酬というべきでない。

被告の認定は実情を無視し非合理的かつ機械的な判断によるものであるから、双方とも実質的に損金経理すべきものである。

なお、原告において昭和四二年二月一〇日の取締役会で監査役の報酬は五万円以内とされ支給基準の細目を定めていないことは認めるが、その余は争う。

6 について

六万三、三〇〇円は美容室の用途変更のための支出ではない。別表五(三)の細目をみると、改造費を除いていずれも一万円前後あるいはそれ以下の小額支出であるとともに耐用年数一年未満である。改造費三万〇、三〇〇円についてはベニヤ板の張替え程度で通常要する修繕費の範囲を逸脱するものではない。事務所の壁面を通常のベニヤ板より化粧ベニヤ板に変えたにすぎない。

7 について

所得金額を争う。

8 について

青申取消処分が違法であることにより取消されるに伴い当然承認されるべきである。

9 について

争う。

10 について

争う。

原告 日銀不動産株式会社

被告 松山税務署長

二 被告(請求の趣旨に対する答弁)

(一) (本案前の答弁)

1 原告の訴をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(二) (本案の答弁)

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

一 (本案前の被告の理由)

(一) 本件訴は以下に述べるとおり出訴期間を徒過して提出された不適法な訴である。

1 原告は本件課税処分等について審査請求をなし、これに対する裁決書が昭和四六年五月一五日原告に送達されたことは争いがない。また原告が本訴状を昭和四六年八月一六日(月曜日)御庁に提出していることは記録により明らかである。

2 ところで、行政処分に対する取消訴訟の出訴期間は処分または裁決があつたことを知つた日から三か月であるが(行訴法一四条一項)、右の期間は処分または裁決につき審査請求をすることができる場合において審査請求があつたときは、その審査請求をした者についてはこれに対する「裁決があつたことを知つた日から起算する」ものである(同条四項)。そしてその出訴期間の計算方法については、行訴法上審査請求に対する裁決を経た処分の取消訴訟については同条四項の文書から考えると法令の用語例にしたがい初日を算入して計算すべきである(名古屋高金沢支判昭二八、五、四行裁例集四、五、一〇四一、杉本解税五四頁、南編注釈一五九頁、林「新版法令用語の常識」六六頁各参照)

3 これを本件についてみれば、出訴期間は原告が審査請求に対する裁決があつたことを知つた日である昭和四六年五月一五日が起算日となり(初日算入)、昭和四六年八月一四日(土曜日)にその期間が満了することとなるのである。

したがつて本件訴は、前述ののように昭和四六年八月一六日に提起されているから法定の出訴期間を徒過しており不適法である。

(二) 原告は裁決があつたことを現実に知つたのは昭和四六年五月一八日であると主張して特別の事情をあげているが、次の点から理由がない。

1 原告は昭和四六年五月一五日当時本店を松山市湊町四丁目六番地一八に有し、今治市から同番地に転入した訴外株式会社レデイ薬局と同居していた。訴外株式会社レヂイ薬局は同地で医薬品・化粧品の小売を営んでおり、代表者は三橋フジ子である。同人は原告会社の代表者三橋春男の妻であり、かつて原告会社の代表取締役の経験もあつて当時監査役をしていたのである。この三橋フジ子の住所は松山市南堀端町五番地の二であり、訴外株式会社レデイ薬局に常勤していたので送達当日十分これを知り得たはずであり、原告会社の代表取締役の受領をもつて現実に知つたとする原告の主張には理由がない(大阪高判昭三八、五、一四高民集一六、四、二三七、東京高判昭二五、二、一三高民集三、一、一)。

2 原告法人の昭和四六年当時の登記簿上の役員状況は別表八(三)記載のとおりである。同表のとおり、書類が送達された当時原告法人には役員がいなかつたことになるが、取締役については商法二五八条監査役については商法二八〇条によつて退任した役員が選任せられた役員の就職するまで役員の権利義務を有するので、三橋春男は取締役であるとともに三橋フジ子は監査役であつたことになり五月一五日裁決のあつたことを十分知り得たはずである。

四 請求原因に対する被告の認否

(一)

1 認める。

2 認める。

3 争う。

4 争う。これに対する被告の主張は後述のとおりである。

5 争う。

1 認める。

2 認める。

3 争う。

4 争う。被告が原告の昭和四一事業年度についての青色申告の承認を昭和四五年四月三〇日付で取消したことの適法性については後述のとおりである。

ところで、法人税法第一二七条第一項によれば、右取消の効果は当該事業年度の開始の日に遡つて生じ、以後その提出した青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされる。したがつて被告が原告の各事業年度についてなした各更正処分はいずれも青色申告書に係らない法人税の課税標準について更正したものとなり、法人税法第一三〇条第二項を適用する余地はない。

そして、国税通則法第二八条第二項には更正通知書に記載すべき事項が列記されており、甲一〇号証、一一号証に明らかなとおり本件各更正通知書にはいずれも右法定記載事項が明確に記載されている。したがつて、右各更正通知書には瑕疵はなく右各更正処分には違法は存しない。

そして、所得金額を過大に認定したとの原告の主張に対する被告の主張は後述のとおりである。

1 認める。

2 認める。

3 争う。

4 認める。

5 認める。

6 原告が再更正処分に対し審査裁決を経ていないことは認める。

7 争う。以下前記原告の請求原因(二)の4に対する認否に同じ。

五 被告の主張(抗弁)

(一) (青申取消処分の適法性)

1 被告は原告の納税申告の適否を調査していたところ、四一事業年度において香川商会等の架空の名称を用い主として大阪・東予・高知方面に商品の販売を行い、その代金を広島銀行松山支店に西川繁夫、杉原シズ子等の名義で設定した普通預金に預入する等の行為をなし、正規の記張を行わず売上の一部を除外していることを発見した。なお、後述(二)1の主張をここに引用する。

このことは取引の一部を隠蔽および仮装した行為であり、法人税法(昭和四〇年法律第三四号制定現行のもの)一二七条一項三号に定める事由に該当するので、被告は青申承認を取消したものである。

2 もともと青色申告制度は、戦後税制の民主化に伴い所得税、法人税の分野においては従来の賦課課税方式にかえて納税義務者の自主的申告によりその納税額を確保するいわゆる自主申告納税方式が大幅に採用されるに際し、この申告納税を円滑公正に実施させるには各納税義務者がその取引関係を正確に記載した帳簿を備えこれによつて所得が過族なく把握される体制が整備される必要があるので、このような記帳の慣行を普及させるために設けられたのである。したがつて、青色申告制度は所得の基礎となつた一切の取引関係を組織的かつ継続的に記録した帳簿の完備を前提とし、かかる帳簿のみを基礎にして税額を確定しようとするものであるから、本制度を実施するには帳簿に信頼性のあることがもつとも肝要であり、備付けた帳簿が不完全であつたりあるいは信頼のおけないものである場合には、青色申告によつて公正な納税を実現することができないこととなる結果帳簿等の正確性を担保するため、本制度は納税者に対して一定の特典を付与するとともにこの期待を裏切つた納税者に対してはいつたん付与した特典を剥奪することとしたのである。

ところで、青色申告承認の取消は法人税法一二七条一項各号に該当する場合になされることとされ、同条二項により当該処分の通知書には処分理由となつた事実が一項各号のいずれに該当するかを附記すればよいとされているが、これは右各号がいずれも青色申告における記帳等の誠実性、信頼性を疑わしめ正確な所得算出を不可能とする場合をすでに相当程度具体化して規定されている関係上、処分に際しても右に該当する各条項号を示すことによつて、ことの性質上処分を受ける者としては必要な範囲の理由は知り得るはずであり、これにより処分の公正は十分に担保されると解されるのである。そして、この点が、更正処分を行う場合において課税標準等の金額に変更を来す原因事実が具体的に示されないかぎり処分を受ける者にとつてなぜに更正された金額が生じたかを試算できないことと彼我事情を異にするわけであつて、これがまた更正処分の場合の法人税法一三〇条二項と青申取消の場合の同法一二七条二項の各明分の相違する実質的理由である。

このように、法の文理はもちろんのことその実質的理由からも、青申取消の場合にあつては理由についての具体的事実の記載はその必要がないのであり、したがつて被告のなした本件処分は適法である。

(参考判決例)

(1) 名古屋高金沢支判昭四三、一〇、三〇行裁集一九、一〇、一六九五

(2) 名古屋高判昭四五、二、二四行裁集二一、二、三六六

(二) (四一事業年度課税処分の適法性)

四一事業年度について原告が申告した損益計算は別表一の「A原告金額」欄記載のとおりであり、被告が主張する所得金額の基礎となる損益計算は同表「B被告金額」欄記載のとおりである。そこで右損益計算の差額のある科目について被告の算定根拠を示せば次のとおりである。

1 (売上金額の差額三五〇万二、六〇四円について)原告は前記(一)1で述べた訴外売上金を西川繁夫名義普通預金に当事業年度中に利息金額を除いて(以下全預金に同じ)四六九万七、七一三円、杉原シズ子名義普通預金に一、三〇四万〇、二二一円、高石フジ子名義普通預金に二一万九、八九〇円(合計一、七九五万七、八二四円をそれぞれ入金している。そして、この預金の入金には原告の預金出納簿残の手持現金等から入金したと認められる売上代金外のものが七九九万一、一〇四円存在することが認められたので(その明細は別表三(一)記載のとおり。なお原告が控除を主張する高石フジ子預金の入金額は別表に示すとおりすでに控除ずみである。さらに各預金中の入金明細は別表三(二)記載のとおりである)、右合計金額からこれを控除し、さらに前記除外売上の代金のうち右の預金に入金されていない二八万五、四〇〇円(その明細は別表三(三)記載のとおり。なお右は原告の簿外取引先たる今治市所在株式会社松田商店からの当事業年度における売上収入はすべて小切手収入であり、その受入のほとんどは杉原シズ子名義普通預金に入金されているのであるが、そのうちの一部である右二八万五、四〇〇円は右の預金に入金されていないため、これを加算したものである)を加算した金額から、第一商会等の架空の取引先名を使用して後日売上に記帳計上した金額六七四万九、五一六円(その明細は別表四記載のとおり)を控除した残額三五〇万二、六〇四円を被告は売上除外金額と認めてこれを加算した(計算式は別表九(1)のとおり)。

なお、原告は高石フジ子名義普通預金は三橋フジ子個人の預金であると主張するが、当該預金の入金には取引先からの送金によるものは見当らないものの、昭和四一年八月二七日に払出した二万七、〇〇〇円は原告の簿外預金たる西川繁夫、杉原シズ子名義普通預金の場合と同様に原告の当座預金に振込まれていて右簿外預金と同様の取扱いがなされていることからして、右高石フジ子名義普通預金は明らかに原告のものと認められる。

また、原告は被告主張の差額は原告の手持現金等のなかより入金したもので売上除外にかかるものでないと主張するが当該預金の入金は被告自身の差額算出計算において手持現金からの入金と認められるものはすでに除外しているので、そのほとんどが取引先からの送金を受けたものであつて原告の主張する手持現金からの入金ではない。

原告の現金出納帳には昭和四一年一一月一五日から一二月二日に至る間の八日間について現金残高が赤字となる記帳がなされている。このことは原告が適正な記帳経理を行つていないことを示すとともに、簿外売上の収入金が原告の主張は反し現金出納帳に計上されずに保持され前記の赤字支払に充当されたことを示すものであつて、松山税務署法人税課山内優が昭和四三年五月六日に原告の現金監査において記帳残高を超過する一〇万余円の現金保管があつたことを確認している事実もこのことを示している。

なお、原告は売上を後日すべて計上しているので売上除外はないと主張されるが、いずれにせよ全額を計上する意図を有しながら、これを後日計上する等ことさらに難解な経理方法を用いなければならない特段の事情が原告に存在したとは認められない。

2 (受取利息の差額二、六五七円について)

前述の西川繁夫、杉原シズ子および高石フジ子名義普通預金の当事業年度における収入利息一、五一二円、九七五円、一七〇円計二、六五七円を加算したものである。

3 (給料の差額一七万一、八一〇円について)

原告の取締役西川繁夫に支給した賞与等一七万一、八一〇円は、同人が法人税法施行令七一条一項四号に規定する「同族会社の判定の基礎となつた株主」に該当する代表取締役三橋フジ子の実弟であり、かつ株主総会にも出席して議事録に署名押印していること等から判断して同令七〇条に規定する使用人兼務役員とはなりえないと認められるので、その換金経理を否認した。

原告は取締役西川繁夫は総務部長の職にあり使用人兼務役員であると主張するが、同人は右のとおり代表者三橋フジ子の実弟でありかつ当時その夫三橋春男は原告の主張するごとく原告の非常勤の監査役にあつたため、三橋春男の代行として経営に従事していたことが認められ、したがつて法人税法三五条五項にいう使用人兼務役員とは認められないものである。

4 (価格変動準備金繰入損、退職給与引当金繰入換の差額一六七万三、四九〇円、三〇万五、〇〇〇円について)

前述のとおり原告は青色申告の承認が取消されているのでその承認を条件とするこれらの預金算入は認められない。

5 以上によつて、原告の当事業年度中の所得金額は別表一「B被告金額」欄記載のとおり七〇九万八、二二二円となり、したがつてこの範囲内でなされた当事業年度の所得金額を五九四万六、六二四円とする課税処分およびこれに伴う重加算税二四万六、九〇〇円の賦課決定処分は適法である。

(三) (四二事業年度課税処分の適法性)

当事業年度について原告が申告した損益計算は別表二の「A原告金額」欄記載のとおりであり、被告が主張する所得金額の基礎となる損益計算は同表「B被告金額」欄記載のとおりである。そこで、右損益計算の差額のある科目について被告の算定根拠を示せば次のとおりである。

1 (売上金額の差額三四万七、四八九円について)当当事業年度中に西川繁夫名義普通預金に六三万一、六八〇円、坂本クミ子名義普通預金(協和銀行松山支店)に四三万七、二〇二円(合計一〇六万八、八八二円)の各入金となつている。さらに仮名を使用して売上を行つた売上代金のうち右の預金に入金されていない一四万六、七四七円(前事業年度同様訴外松田商店との当事業年度における取引の収入金の一部で、その明細は別表五(一)記載のとおり)を右合計額に加算し、前事業年度同様の架空の取引先名を使用して後日売上に記載計上した金額八六万八、一四〇円(この明細は別表五(二)記載のとおり)を控除した残額三四万七、四八九円を売上除外金額と認めて加算した。(計算式は別表九(2)のとおり)。

なお坂本クミ子名義の普通預金は昭和四二年三月一三日訴外松田商店からの一万五、七三二円、同年四月五日には住友銀行新居浜支店からの七万一、四七〇円の収入金が振込まれ、西川繁夫、杉原シズ子名義預金同様の取扱いがなされており明らかに原告のものである。

前年度についての被告の主張前記(二)1第二段以下をここに引用する。

2 (受取利息の差額八五万〇、六五六円について)

西川繁夫、坂本クミ子および高石フジ子名義普通預金の当事業年度における収入利息八四円、一七円および二一一円合計三一二円を加算した。

そして、原告が前事業年度には計上した訴外株式会社銀ビルに対して有する債権の利息を今期は計上していなかつたので、通例とされる年一割の利率でもつて計算した認定利息八五万〇、三四四円を右金額に加算した。

原告主張の代物弁済について、原告主張の別表七(一)の土地八筆については別表八(一)のとおり代物弁済がなされ債権が消滅したのは当事業年度(自昭和四二年二月一日至昭和四三年一月三一日)中ではないから、当年度中においては利息を計上すべきである。また原告主張の別表七(二)の土地四筆については別表八(二)のとおり代物弁済がなされ債権が消滅したのは前年度中になされたことは原告の記帳処理日から推して明らかであり、したがつて被告においても右金額はすでに当事業年度においては債権額から控除して計算している。

すなわち、その算式は別表九(3)のとおりであつて、その残額九二六万八、八四八円が本件対象年度末現在における債権残存額であつて、このうちから前事業年度までに発生した利息分七六万五、三一二円を控除した元本額八五〇万三、五三六円に対する一割の額八五万〇、三四四円をもつて当該年度において発生した利息として所得に認定加算したものである。

3 (価格変動準備金戻入益の差額一六七万三、四九〇円について)

原告は前事業年度に設定した価格変動準備金を租税特別措置法(昭和三二年法律第二六号制定昭和四〇年法律第三六号改正のもの)五三条四項によつて当事業年度に益金算入したのであるが、前述のとおり青申承認の取消によりこの適用はないので、右金額を減算した。

4 (仕入高の差額七一〇万七、〇二〇円について)

原告は当事業年度において訴外吉田学から七四六万八、二〇〇円の仕入を行つたと記載計上しているのであるが、調査の結果同人発行の領収書記載の別府市新町には右吉田学は居住せず、かつ取引の事実を証する出庫表等の資料の提示が得られなかつた。しかも原告の代表者、当時の事務担当者、経理担当者の当該仕入にかかる説明は一貫性を欠き、また昭和四二年六月から昭和四三年一月までの八か月間に九回にわたる取引であることや、仕入商品のうちには取扱いに注意を要し返品処理を要すると認められる薬品類の含まれていること等を考慮する場合、右仕入が事実とすれば当然実際の取引先を知得しているべきと考えられるのに原告はこれを知らないと説明していること等により、被告は右取引は架空仕入と認め減算した。

そして、厚生薬品その他より当事業年度において仕入れた一一九万四、五九六円の仕入計上洩れがある一方に期末に返品した商品の仕入額減算洩れの金額が八三万三、四一六円あつたので、その差額三六万一、一八〇円は仕入高に加算した。

5 (給料の差額五万四、四〇〇円について)

取締役西川繁夫に対して支給した賞与等一一万〇、六〇〇円は前事業年度分と同じ理由により否認し、監査役三橋春男に対する報酬支払は昭和四二年五月から同年九月までは毎月一万円の支給であるが、同年一〇月以降一二月までの三か月については各五万円、翌年一月は三万円の支払をしているところ、この一〇月以降の支払は通常の報酬額を超える部分が含まれているので、月一万円の部分を超える一四万円は過大報酬と認めて否認し減算した。

そして、当事業年度において退職した従業員の退職金を前期に積立てた退職給与引当金を取崩して支給しているが、この引当金は前期において被告は青色申告承認の取消に伴い否認しているので、給料の支払に認め加算した。以上の加算減算によつて給料の差額は五万四、四〇〇円の加算となる。

なお、損金に算入すべき給与とはあらかじめ定められた支給基準に基いて月以下の期間を単位として定期的かつある程度定額で支給されるものをいうと解すべきところ、原告会社においては昭和四二年二月一〇日開催の取締役会で監査役報酬は五万円以内とする旨の決議がなされているが、それ以上支給基準の細目は定めていない。右事情から被告は監査役三橋春男については最も長期間支給された額である一万円を同人に対する定期的定額的な給与と認めこれを超える部分を賞与と認定したものである。

6 (修繕費の差額六万三、三〇〇円について)

原告は当事業年度においてチヤーム美容室を設備しその費用を修繕費として経理しているが、そのうち六万三、三〇〇円は美容室開設に伴う用途変更のための支出であるから、法人税法施行令一三二条二号の資本的支出と認めその経理を否認し減算した。その明細は別表五(三)記載のとおりである。

これを詳論すれば、右の各支出は原告が当該年度中あらたに設備設置したチヤームレデイ美容室の新設工事に伴う出費の一部である。すなわち、右工事はその主体工事については株式会社愛媛装飾に施行させ、これが請負代金三三万七、六五〇円についてはカネボウ化粧品外二社から受領した補助金をもつてそのまま支払に充当したものであつて、前記の修繕費名下の支出は右本体工事費中に含まれていない不要消毒器等の設備の購入費である。これら備品も美容室本体と一体として効用をはたす性質のものであつて美容室設備そのものとともにあらたな資産を構成するものと認めるべきである。したがつて、被告は原告が損金として計上する修繕費一二万九、〇五〇円、消耗品費六万六、一〇〇円計一九万五、一五〇円中から個別的にこれを検討し、前記意味における商品等の購入と認められるものの合計六万三、三〇〇円を資本的支出と認定したものである。

なお、右化粧品メーカーから支給を受けた三三万円も本来原告の当該年度における所得として認定されるべき性質のものであつて、被告は従前の主張に対して右金額を原告の所得に追加加算し主張しでおくことにする。

7 (公租公課の残額四九万二、〇〇〇円について)

原告の四一事業年度の所得金額五九四万六、六二四円のうち更正増差額四五〇万三、九六三円に対応する事業税を損金として控除することを認め加算した(地方税法七二条の二二、二〇条の四の二参照)。

8 (退職給与引当金繰入額、価格変動準備金繰入の差額二七万五、一一〇円、四九万三、五二八円について)

原告は前事業年度以降の青色申告承認が取消されているので、これら引当金、準備金の損金算入は認められないから、これを否認し減算した。

9 (寄付金の差額九万〇、四八五円について)

原告は前述のとおり訴外株式会社銀ビルに対して有する利息の収入を計上しなかつたので、被告はその収入を認定するとともにそれを株式会社銀ビルに対して寄付(贈与)したものと認め、法人税法三七条「寄付金の損金不算入」に定める計算による損金の算入額九万〇、四八五円を認め加算した。

10 以上によつて原告の四二事業年度の所得金額は別表二「B被告金額」欄記載のとおり七七四万三、〇三一円となり、したがつてこの範囲内でなされた当事業年度の所得金額を六九八万三、一七二円とする課税処分およびこれに伴う重加算税五九万三、一〇〇円の賦課決定処分は適法である。

以上

別表一 四一事業年度損益計算表

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別表二 四二事業年度損益計算表

〈省略〉

〈省略〉

別表三 (被告主張、四一事業年度分)

(一) 原告の手持現金等から入金したと認められる売上代金外のもの七九九万一、一〇四円の明細

〈省略〉

(二) 右七九九万一、一〇四円の各預金中の入金明細

〈省略〉

(三) 簿外売上代金のうち右の預金に入金されていない二八万五、四〇〇円の明細(差額欄)

〈省略〉

別表四 (被告主張、四一事業年度分)

架空取引先名を使用して後日売上に記帳計上した金額六七四万九、五一六円の明細

〈省略〉

〈省略〉

別表五 (被告主張、四二事業年度分)

(一) 仮名を使用して売上を行つた売上代金のうち西川等の預金に入金されていない一四万六、七四七円の明細(差額欄)

〈省略〉

〈省略〉

(二) 架空取引先名を使用して後日売上に記帳計上した金額八六万八、一四〇円の明細

〈省略〉

(三) 修繕費差額六万三、三〇〇円の明細

〈省略〉

別表六 (原告主張、両年度分)

(一) 原告の松田商店への売上金額と原告が後日売上に計上した金額との関係(四一事業年度分)

〈省略〉

(二) 被告主張の別表五、(一)、(二)の売上計上の関係(四二事業年度分)

〈省略〉

〈省略〉

別表七 (原告主張、四二事業年度分)

銀ビルより代物弁済をうけた物件等の明細

(一) 取得年月日 昭和四二年二月一五日 弁済充当金額九三二万七、一九四円

松山市祝谷西町乙一五五番一 山林一、四二一平方メートル

同 所 乙一五八番 山林一、六一六平方メートル

松山市南斉院町乙四七番 雑種地三、七四二平方メートル

同 所 乙四〇番三五 宅地五二五・四二平方メートル

同 所 乙三二番 宅地一、二九九・一七平方メートル

同 所 乙三三番 宅地一、二九九・七五平方メートル

同 所 乙三七番 宅地一、九六六・九四平方メートル

松山市別府町三六番二 宅地三、六一七・三八平方メートル

(二) 取得年月日 昭和四一年四月一〇日 弁済充当金額二一五万円

松山市北梅本町乙二七六番 山林五九五平方メートル

同 所 乙二七二番 山林一三八平方メートル

松山市石風呂町乙五六番四〇 山林一、五三〇平方メートル

同 所 乙五六番二五六 山林四、三三三平方メートル

以上

別表八 (被告主張、四二事業年度分、本案前の答弁の分)

(一) 代物弁済の物件と弁済日等について(その一)

〈省略〉

(二) 代物弁済の物件と弁済日等について(その二)

〈省略〉

(三) 原告の昭和四六年当時の登記簿上の役員状況

〈省略〉

別表九 (被告主張)

(1) 41事業年度売上金額の差額350万2,604円の計算式

預金入金高 原告の手持現金等からの入金と認めた額 預金に入金されなかつた簿外売上金額 架空取引先名をもつて売上計上したと認めた額 売上除外と認めた金額

17,957,824円-7,991,104円+285,400円-6,749,516円=3,502,604円

(2) 42事業年度売上金額の差額34万7,489円の計算式

預金入金高 預金に入金されなかつた仮名売上金額 架空取引先名をもつて売上計上したと認められる額 売上除外と認められた金額

1,068,882円+146,747円-868,140円=347,489円

(3) 42事業年度期末債権額の計算式

昭41.11.30残 昭和41年度の発生利息 不動産代物弁済額 期末債権額

10,653,536円+765,312円-2,150,000円=9,268,848円

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